大阪地方裁判所 昭和41年(手ワ)1369号 判決 1966年7月28日
原告 上辻孝雄
右訴訟代理人弁護士 田宮甫
同 笠井盛男
被告 伊藤保一
被告 牧田喜代楠
右両名訴訟代理人弁護士 中村信逸
同 真鍋正一
主文
被告等は、各自、原告に対し、金八七七、二一〇円およびこれに対する昭和四一年六月二六日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告等の連帯負担とする。
この判決は、仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。
一、被告牧田は、次の記載のある約束手形一通を振り出した。
金額 金八七七、二一〇円
支払期日 昭和四一年六月八日
支払地 大阪市
支払場所 株式会社三和銀行順慶町支店
受取人 被告伊藤
振出日 昭和四一年二月一八日
振出地 大阪市
振出人 被告牧田
二、被告伊藤は拒絶証書作成義務免除の上右手形を中川莫大小工業株式会社に裏書譲渡し、同会社は更にこれを原告に裏書譲渡し、原告は現にこれを所持している。
三、原告は右手形を支払期日に、支払場所に、支払のため呈示したが、拒絶せられた。
四、よって、被告等に対し、それぞれ、右手形金とこれに対する満期の後たる訴状送達の日の翌日たる昭和四一年六月二六日から完済に至るまで年六分の割合による利息の支払を求める。
被告等訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。
一、被告牧田が原告主張の手形を振り出し、被告伊藤が右手形を拒絶証書作成義務免除の上中川莫大小工業株式会社に裏書したことおよび同会社が原告に右手形を裏書譲渡し、原告が現に右手形を所持していることは否認する。
二、原告が、右手形を、支払期日に支払場所に支払のため呈示したが、拒絶せられたことは知らない。
三、被告等は保証書に署名したものであって、手形行為をしたものではない。すなわち、オフクメリヤス株式会社は中川莫大小有限会社に対し買掛金支払の方法として、本件手形金と同額の約束手形一通を振り出し交付したのであるが、その後中川莫大小有限会社の要請によりオフクメリヤス株式会社の右手形債務を保証するために、手形用紙を利用して保証書として差入れたものである。
四、本件手形用紙上には保証手形なる記載があり、主たる債務の存在が記載自体より明白であり、また主たる債権消滅により本件手形債権が不存在となることも亦自ら明白であって、本件手形債務は、その発生が本件手形上記載外の事実の発生を条件とするもので、且つその旨手形面上に記載があるので、支払約束の単純性を害する。従って、本件手形は手形として無効である。
証拠として、<以下省略>。
理由
成立に争のない甲第一号証によると、被告牧田は原告主張の如き金額、支払期日、支払地、支払場所、受取人、振出日、振出地等の手形要件の記載せられた約束手形用紙のいわゆる振出人欄に記名押印をし、被告伊藤はその第一裏書欄に署名押印をしていることが明らかである。かくの如き記載態様の約束手形用紙に署名(記名、押印)をしたものは、特段の事情のない限り、手形行為をしたものと認めるのを相当とすべく、被告牧田は振出、被告伊藤は裏書行為をしたものというべきである。そして、右甲第一号証と、原告が現に右手形を所持している事実とによると、右手形は被告伊藤から中川莫大小工業有限会社、原告、城南信用金庫へと順次拒絶証書作成義務免除の上裏書譲渡せられ、同金庫において支払期日に支払場所に右手形を支払のため呈示したが拒絶せられたので、原告がこれを受戻し、現にこれを所持していることが認められる。
よって、被告等の抗弁について考えるのに、本件手形の金額欄に保証手形なる記載のあることは右甲第一号証により明らかである。もとより、約束手形の支払約束は単純でなければならず、支払約束の効力を手形外の事実にかからしめることはできないもので、従って、手形の効力を原因関係にかからしめ、或は支払を条件、若くは反対給付にかからしめるような、手形の本質に反し、又は手形要件を破壊するような記載は許されないものである。ところで、右のような保証手形なる記載が原因関係を示す記載であることは、もとより、多言を要しないところであるが、それは原因関係の存否、効力を手形の効力や支払の条件としたものとみるよりは、むしろ、その取扱を誤らないようにするため、或は帳簿処理等の便宜のために、手形授受の縁由を示したものにすぎないものと解するのを相当とするから、右記載は、いわゆる原因文句として、手形自体の効力を害するものではないといわねばならない。そうすると、被告の抗弁は理由がない。<以下省略>。